ヰンダルジェンス

はやく主人公になりたい。(日々を可能なかぎり文学的に書き残す、私なりの彼との全記録)

K knows,

私のぐずぐずとした文章も読み飽きられた頃でしょう。やれ梶井、やれ太宰、やれ夢野、そんな薄気味悪い文学ばかりを読んできた私の文章はおそらく読みにくく黴が生えていますから、今回は少し趣向を変えて、私のご主人に寄稿していただくことにしました。

私の視点ばかりでは偏ってしまいます、私たちの私たちたる所以を、ご主人の視点からご覧くださいませ。

 

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皆様、こんにちは。Kと申します。
アリスから「ご主人の寄稿が欲しい」と言われたので、書いてみます。
取り留めのない駄文になること、予めお許し下さい。

私は彼女のように「ファウストが云々」とか「盲蜥蜴と小夜啼鳥の寓話」とか、そのような高尚な話はできません。
いつも彼女の知識の幅と深さには舌を巻きます。
ですから、そうですね。私は「私」と「アリス」の話しかできません。
私がどういう人間かは今まで散々語ってくれましたから。私から見たアリスを書いてみようかと思います。

どこから書こうか・・・
とりあえず、私が彼女と出会った時に何を考えていたかを、少し書いてみましょうか。

 

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彼女と初めて会った日、もとい、会った瞬間。私の感覚は間違っていなかったと確信しました。
直接顔をあわせる少し前から、私たちは文章でのやり取りを数週間していました。
そのやり取りからは、彼女の聡明さ、世間一般でいう女性らしさ等々と一緒に、なんとも表現し難い蠕くものを感じていたのです。
それがなんなのか、正直わかりませんでしたが。
しかしカフェに(遅刻して)到着した彼女を見た瞬間、その蠕くものを肌で感じることができた瞬間、私は思わず左の口角がクイッと上がってしまったのを覚えています。(おそらく彼女は気づいていないでしょう)


黒い渦のようなものが見えました。彼女の背中にへばりつくように。
それは彼女を今にも飲み込まんと口を開けて、涎を垂らして待っている。
そしておそらく、その渦の中に彼女は入ったことがある。私の知らない世界を見たことがある。その世界の残り香が、彼女からも感じられましたから。
彼女は「できる限り普通の人に見えるように」と言っていましたが、あれだけ目から、口から、耳の穴から、毛穴から、滲み出ていたら気づかないわけがありません。
(長年のひどい鼻炎で嗅覚がほとんど遮断され、カレーの匂いすらあまり感じることができない私にもわかったのですから、それは強烈だったのだと思いますよ)

あの渦の中の世界には一体何があるのだろうか。彼女は何を見てきたのだろうか。猛烈に刺激的で、常人離れした体験をしてきたに違いない。

・・・面白い。私もあの渦の中へ。行ってみたい。

反して、彼女はそれは凛々しく、必要以上に毅然とした態度で話をしていました。会話の内容はほぼ覚えていませんけどね。
こんなことを言ったら後で彼女に怒られるかもしれませんが、私は笑いを堪えるのに必死でした。
彼女は今頑張っている。「私はそんなに簡単な女じゃないのよ」「あなたに私が理解できるかしら」と必死に自分を取り繕っている。
そんな姿が少し滑稽に見えたのは確かです。
何を言っているんだ。君はそんな人間じゃないだろう。もっと暗くてジメジメしたところにいた人間だろう?と。

でも同時に、もしかしたらあの世界にはもう行きたくないのか?とも考えました。
いや違う。違うな。根拠はない、でも違う。私は確信していました。


少し私の話をすると、自分は比較的勘の良い人間だと思っています。
初対面の人間と相対した時には、大体話をする前から気が合う、合わないの判断ができ、おおよそそれは間違っていない。
何か物事を進行するとき、根拠はないが、うまくいく選択をすることができる。そうやって今まである程度うまく生きてきたからこそ、今回の彼女との出会いに関してもその感覚に頼ることにしたのです。


そしてその選択は成功しました。
私が突然見せたデパートメントHの写真。緊縛の映像。それらを見た瞬間、彼女の目はキラキラと、淀んだ光を魅せたのです。
彼女が自分を取り繕うために作った、それはそれは分厚く強固な仮面が、少し外れた瞬間でした。
・・・あぁ、やっぱりこの子は面白い。

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これが彼女との出会いの日に、私が感じていたことです。また「ご主人は本当に不遜だ」と言われそうですね。


今、私と彼女がいる世界。主人である私とアリスがいる世界。
いわゆる“普通の世界“と、暗い世界の両方を行き来しています。

確かに彼女は最初に感じた通り、暗くてジメジメした世界の住人でした。
でもそれは他の世界を知らなかったから。
私も同じです。今までは“普通の世界“の住人でした。
2人とも、違う世界の魅力に想いを馳せながら、片方の世界で生きていたのです。

いや、殊に彼女に関しては「生きていた」とは言えないのかもしれません。彼女は今までいた世界では、自分を消滅させていたと言います。
自分で何かを選択すること、決断することを放棄させられていた。抜け殻。容れ物。

だから今彼女は、「生きる」という選択と決断を頑張ろうともがいてます。
その頑張りに対しては、私は笑いを堪えるなどということはしません。
自分を取り繕うのではなく、自分を取り戻そうとしている。
そんな彼女の姿は、とても美しいのですから。


時折、取り繕うという癖、生癖(いきぐせ)が今でも見え隠れします。
その時彼女は決まって感情を遮断していて、他人より発達した脳みそだけで話をします。能面のような顔になるのです。とてもわかりやすい。
でも自分を全く取り繕うことなく生きている人間などいませんから、きっと彼女もそのうち丁度良い塩梅を見つけるでしょう。
私は楽観的なのです。

 


ほら、やっぱり取り留めのない文章になってしまった。
私は文章を読むのは嫌いじゃないですが、書くのは得意ではないんですよ。
こんなところで許してくださいな。

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はい。許してあげましょう。以上、ご主人からの寄稿でした。ぜひ定期的に書いていただくことにしましょう。

私は恋愛のドキドキなるものがよくわかりません。いわゆる良く物語に美化されて描かれる、「出会い→関わりが生まれる→好きなものや嫌いなものの一致などを経て相手を知る→やがて興味を持つ→好きかもしれないと自分の情動を疑う→相手も自分のことを好きなんじゃないかと胸を高鳴らせる→その緊張と楽しさが最高潮に達した時に告白→晴れて結ばれる」というプロセスを踏んだことがないどころか、そういうようなプロセスを踏むことになんの興味もなく、またおそらくそれに割くような情もないのでしょう。極端に言えば、「あなたみたいに感性が素敵な人にとても惹かれます」と言われるよりも、素直に「抱きたい」と思われる方が信用できるのです。人間も所詮動物。動物的"直感"には抗えないのです。たかだか生殖を目標とした都合のいい感情の動きをロマンティックに包もうとする人は確かに優しく気持ちいいのでしょう。でも私は、それだったら、手に入れたいと動物的に思われた方が興奮いたします。その動物的な衝動を人型に押し込めて、まるで太陽のように笑ってみせる。ああなんて素晴らしいんでしょう。

だからご主人の言う、「直感」を、とてもとても合理的で信用に足ると思えるのです。ご主人の口説き文句を思い出すたび、私は仙骨のあたりがひくひくと震え体や瞳が濡れてくるのを感じます。「写真を一目見た時に、この子の首を締めたいと思った」。一般的に見たら明らかに気の狂った口説き文句です。でもご主人はその聡明さで私の匂いを嗅ぎ分け、私に近づいてきました。そしてその獣の顔を気取らせないよう様子を伺い、私の体に毒を染み込ませたのちに鮮やかに狂気を見せつけた。

これが戀だと言うのならあまりにも凶悪な感情です。しかしどうしようもない、興奮。

 

Kがその直感を信じ続ける限り、私もKの直感を信じ続けようと思います。ではまた今度。